「ノーベル平和賞ください」ノーベル賞委員会へのおねだり文書に賛同した国会議員にけっこう改憲派がいる

「憲法9条にノーベル賞を」運動について再び その1

ZEDさんの上記のエントリーを読んでとりあえず所属政党をリスト化。
ついでに公式サイトにリンク張っておきました。(立憲フォーラムに掲載されている名簿*1から名前で検索して作成。)
民主党には何人か改憲派なんじゃないかと思った人いたんだけど、確証がないので突っ込みませんでした(ちょっとメモしておけば良かったかも)。どうみても集団的自衛権についても解釈改憲OKなバリバリの改憲派な人が複数入っているうえに、ガチの歴史修正主義者までいるし。ノーベル平和賞改憲阻止にはなんの効力もないどころか逆に作用する可能性があることの動かぬ証拠になってしまっていると思います。
付け加えるならば、日本人の「平和国家 日本」という妄想が右も左も関係なく成立しうることの証左でもあるんではないでしょうか。
安倍さんたちがのどから手が出るほど欲しいのも「平和国家 日本」ていうイメージですよね。だから「積極的平和主義」とかぬかしてるわけで。賞をもらえたとしたら安倍さんへのナイスアシストを護憲派が主導するという悪夢になることでしょう。あと、この運動してる人たちって安倍のこと「本物の保守じゃない」とか「保守が劣化」とか「ヤンキー化(反知性主義もほぼ同義語として使われてる希ガス)」とかいう中身のない言葉で揶揄するの好きそう。(←偏見w)
地獄への道は護憲派の「善意」(っていうか戦後の歴史に対する歴史修正主義ですね、これ)が敷き詰められていたんや…
まあ、もらえないとは思うけど頑張ればいいんじゃないでしょうかぁ〜(棒

衆議院議員

参議院議員

誤訳から得たモノと漢字の落とし穴

先日、部屋のお片付けの途中にみつけた、柳瀬尚紀訳の『ボルヘス怪奇譚集』を再読していたら一話目からいきなり変。

その夜、子の刻に、皇帝は夢をみた。宮廷を出て、闇のなか、花をいっぱいにつけた木々の茂る庭園を散策していた。何かが足元にひざまずき、かくまってほしいと頼んだ。皇帝は願いをききいれた。哀願者は己れが龍であると告げ、さらに、星まわりによれば翌日、夜になる前に皇帝の大臣、韋成に首を撥ねられることになるといった。夢のなかで、皇帝は彼を守ってやると誓った。

(強調は引用者)

死の宣告『ボルヘス怪奇譚集』

という記述なのだが、「韋成」は間違いなく「魏徴」の誤記。出典が明記されていないが、かわりに呉承恩の名前があるのでこの話の出所が『西遊記』なのは明白。なぜこのような誤記をしたのか不思議だったのだが、中野美代子岩波新書西遊記』あとがき*1を読んで疑問氷解。単に欧文から漢字にする過程の問題だったのね。いずれにせよ、この誤訳が元で中野先生は「魏徴斬龍」を「未徴斬龍」に読み替える着想を得た、と書いてある。

 しかし、このはなしは漢字があくまで表記の手段に過ぎないのに、表現力が強すぎてその字面に解釈がひきずられちゃうという事実も示しているような気がする。ちょこっと漢字知ってる人より拼音から入った人のほうが、いろいろ気づくってこともあるかも。
 ちなみにここで中野先生が指摘している訳者は、たぶん国書刊行会の『夢の本』の訳者。『夢の本』は発行年が1983年で『ボルヘス怪奇譚集』は1976年(晶文社クラッシックスは1998年になってる)従って『夢の本』の訳者さんは柳瀬尚紀さんの誤訳をそのままつかっちゃったんでしょうか。『夢の本』のほうは確認してないけど。

ボルヘス怪奇譚集 (晶文社クラシックス)

ボルヘス怪奇譚集 (晶文社クラシックス)

夢の本

夢の本

*1:ボルヘスの文中の漢字ローマ字表記(ウェード式)Wei Cheng を漢字に直すときの訳者の誤り...とある

漢字の将来

初出が1971年8月号の『文藝春秋
武田泰淳陳舜臣の対談

                                                                                                                    • -

武田
まあ、中国の場合、まだ国語が統一されていないから、国語の統一をまずしなければならない。いまはさかんに民族移動*1をやって、お互いに混合させて一つの中国を作ろうとしている最中でしょう。教科書も漢字のほかにローマ字*2も使っていますね。中国人は決して漢字にべんべんとしているわけではない。ところが日本の漢学者は、漢字がなくなったら中国文化はないという。しかし、日本の漢学者が持っている漢字に対する学識というものは、果たしてどの程度か。漢字が発生したときの事情を知らないで、それから流れ流れて末端になってきたわけでしょう。いまの漢字はずいぶん末端のものですね。その末端の漢字の意味だけを考えて、肝腎のもとを考えないで、しかも漢字論者であるといっているのは滑稽ですね。



なるほど。


武田
いまはもとの意味とまったく反対になっている漢字がたくさんありますね。たとえば、さっき話がでた「殺」という字は、もともと、タタリをする動物をうつ形で、ころすよりも、相手方の呪いの力を減らすのが原義です。平和の「和(カ)」は軍門のことで、それがいまの和になったのは、軍門の前で講和を結ぶからだという*3。そういうことを全然知らないで、「俺は漢字をよく知っている。ローマ字論者はけしからん。漢字に反対するヤツは非国民だ」・・・・・・。それは許されませんよ。
 ぼくはべつに漢学者を憎む必要もないし、好きですよ。好きだけれど、現状についてのなんの反省もなく、漢字排撃論者は日本文化の伝統を知らんとか言っている。幸福だね。(笑)そんなことを言ったら憎まれるから言いませんよ。言わなくたって生きていかれるんだから。(笑)だけどもさ、きかれればね、漢字論者は漢字を知っているのかなっていいたいですね。



カナにするんなら、いっそのことローマ字にした方がいいという感じがします。


武田
ぼくはね、むずかしい漢字ばっかり使って偉そうに見せるのが好きですよ。なるべく漢字を自分だけが知っていて、他の人は知らない方がいいと思うけれど、(笑)だけどもね、そんなこと言っても実際はローマ字の方がいいと思いますよ。なにも今すぐローマ字にしろっていうわけじゃないけど・・・・・・。そんなこと言ったら袋叩きになっちゃうけれど、事実はそうですよ。



先例がありますからね。ベトナムなんか、うまくいってる。


武田
そうなったら日本文学全集は、全部なくなっちゃう。ローマ字の文学全集なんて誰も読んでくれないからね。だからぼくは困るわけだけれど、だけど本当に人類のためを考えるのなら、イヤでも考えなければね。

時代の空気を感じる対談でおもしろい。
武田泰淳が白川説をもって漢字論者をdisってる。ちょっと意外。
白川説ってどっちかというと漢字論者が好きそうな気がしたので。

三国志と中国 (文春文庫)

三国志と中国 (文春文庫)

*1:下放のことかな?

*2:拼音のことですかね?

*3:原注 白川静著『漢字--生いたちとその背景--』による

鹿の鳴き声について

鹿鳴館」って歴史の授業で習ったけど、そういえば鹿の鳴き声って聞いたことない。
鹿鳴館」の命名の典拠は『詩経』〔鹿鳴之什〕呦呦鹿鳴(ゆうゆうと鹿鳴く)のようだけど
呦呦(ゆうゆう)ってどんな音じゃろ?よくわからない。
YouTubeで探してみたらこんなのがあった。

こんな声で鳴くのかぁ、知らなかった。
拼音だとyōuみたいだから、実際の音と似ていなくもない。
古代中国語の音だとさらに近いかも?

変なチラシを拾ってしまった・・・


ATMの所に置いてあった。
ネット上で見てる分には馬鹿がいる程度で済むんだけど、リアルで見ちゃうとなぁ('A`)
せっせと配ってるんだろうか・・・
文体が如何にもアレな感じだったので、検索してみたら案の定・・・
http://nihon-jyoho-bunseki.seesaa.net/article/145446434.html
自分が拾ったのは一番シンプルなヤツだったみたいね。

パラミツってなによ?

サンシャイン牧場をやってて前から疑問だったのが、パラミツって植物。
見た目はパイナップルっぽいのだけど、そうだったらパイナップルと書くだろうしと思ってWikipediaを見てみたらそういう植物があるらしい。
wikipedia:パラミツ
知らなかった。中国ではわりとポピュラーな存在なのだろうか?、とググった時にはそう思っておしまいになっていたのだが、
今日部屋の片付けをしていて偶然発見した『西遊記』本にこんな事が書かれていた。

つづく波羅国とは、『大唐西域記』巻六に見える波羅奈(バーラーナシー)国いわゆるベナレスのことかとする説もあるが、沈香国との斉合性からいっても、むしろ波羅蜜(ポロミー)すなわちパイナップルのことであろう。これも南方諸国とくに蘇吉丹(スカダナ)(現ハワイ諸島の一部?)あたりから泉州港に入っていた。いまでは福建でもパイナップルを大量に産している。

中野美代子孫悟空の誕生』 1987 福武文庫


な、なんですとー!(; ・`д・´)
中野さんが言ってるんだからやっぱりパイナップルのことなのだろうか?原文には注が付いていて『諸蕃志校注』という書物を参照したよう。
その本は今世紀に入ってから出版されたのものなので、ネットを探してももとの文章は出てこなかったのだけれど、大本の『諸蕃志』は見つけた。

波羅蜜
波羅蜜大如東瓜,外膚礧砢如佛髻,生逭熟黃,削其膚食之,味極甘。其樹如榕,其花叢生,花褪結子,惟一成實,餘各蘸死。出蘇吉丹,廣州南海廟亦有之。

趙汝适 『諸蕃志』 巻下志物 1225 


ここで産出国が蘇吉丹となっているのを思い出し、ふとパイナップルの原産国が気になってWikipediaを見ると原産国はブラジルとある。手元の資料でも南アメリカ原産とある。そうしてみると宋代の書物にパイナップルの記述があるわけが無く、こりゃアウト臭いと思って、再度パラミツをWikipediaで調べてみると英語版にこんな写真が!!
wikipedia:en:Jackfruit

写真はMichał Piotr Boym 1612―1659
(ミカル・ピョートル・ボイムと読むのだろうか?中国名 卜弥格)]
というポーランドイエズス会士の書いた『中国植物志』(Flora Sinensis)
出版は1656年ウィーン。
パラミツの絵と共に、ご丁寧に波羅蜜菓子と書いてある。ちなみに同じ本の中にパイナップルも載っており、中国名は反波羅蜜菓子。中野さんが取り違えたのか?『諸蕃志校注』が既に取り違えているのか?『校注』を持っていないので確認する術がないのだが、どちらにせよ、紛らわしい名前だ。現代中国語でもパイナップルは菠萝(菠蘿)とも言うようなので取り違えやすいのかもしれない。
今回は珍しくWikipediaの記述があっていたようだ。

曹操の墓が見つかったとか!気になる『聊斎志異』の記述。

みんな大好きな三国志曹操の墓が見つかったとのこと。
专家六依据认定曹操高陵 打破“72遗冢”说
http://www.chinanews.com.cn/cul/news/2009/12-27/2040542.shtml

 有名な薄葬の遺言はおぼえていたのだが、演義では他に七十二の偽塚を築いたという伝承があり、中国の方ではそっちも枕詞のように取り上げられている。かなり、印象に残るエピソードなんだなあ。ちなみに自分は七十二塚の方はすっかり忘れていた。
この「七十二塚伝説」初出はかなり時代が下るらしく信憑性は低いらしい。ちらっとしらべてみたけど『三國志』にも載ってない。

んでもってお題の『聊斎志異』なのだが、巻十に「曹操冢」というお話があり、曹操の墓を発見した話が出てくる。
なんでも許の城外の河で水浴びしていた人が切断死体となって発見されて、二人も犠牲者が出た。県知事が河をせき止めて調べてみると、崖下の河の中に深い洞があり、中に刃の付いた水車が仕掛けてあったんだそうな。水車を外して洞の中に入ると漢篆の刻まれた石碑を発見!読んでみると曹操の墓だったので棺を壊して骨をバラバラにし、財宝は尽く盗みました、っていうお話。(『聊斎志異平凡社

聊斎志異 上 (奇書シリーズ 6)

聊斎志異 上 (奇書シリーズ 6)

聊斎志異 下 (奇書シリーズ 6)

聊斎志異 下 (奇書シリーズ 6)

許城外有河水洶湧,近崖深黯。 盛夏時有人入浴,忽然若敲刀斧,屍斷浮出;後一人亦如之。轉相驚怪。邑宰聞之,遣多人閘斷上流,竭其水。見崖下有深洞,中置轉輪,輪上排利刃如霜。去輪攻入,中有小碑,字皆漢篆。細視之,則曹孟紱墓也。破棺散骨,所殉金寶盡取之。
異史氏曰:“後賢詩云:'掘七十二疑塚,必有一塚葬君屍。'寧知竟在七十二塚之外乎?姦哉瞞也!然千餘年而朽骨不保,變詐亦復何益?嗚呼,瞞之智正瞞之愚也!”

 この話の信憑性が気になる。もし本当だったら、碑文を読み違えて別人の墓を曹操のものと誤認してしまったのだろうか?

最後に付いている蒲松齢の評語もふるっている。「嗚呼,瞞之智正瞞之愚也!」河南省で見つかった墓が本物だったらそっくりそのままブーメラン。
まあ、蒲松齢としてはお話が本当かどうかとかはあまり関係が無くて、曹操をdisりたかっただけなのかもしれないが、ここでは暴かれた墓が曹操のものだとわかると盗掘もOKみたいな雰囲気が読書人も含め一般の人たちには、当時はあったということがわかる。それほど憎まれている曹操の墓がその奸計を彷彿とさせる七十二冢の話と共に中国人に思い出されるというのはある意味当然なのかもしれない。