幽明のあわいより 『ようきなやつら』岡田索雲

 けっこう前に、はてブでちょっと話題になっていたマンガの単行本化。収録作品は「東京鎌鼬」「忍耐サトリくん」「川血(せんけつ)」「猫欠(びょうけつ)」「峯落(ほうらく)」「追燈(ついとう)」「ようきなやつら」。「川血」で、河童の家族と暮らす半魚人の子どもが、河童社会の迫害(ただし、家族は彼に優しい)からのエクソダスを描いていて、ちょっと気になっていたので購入。岡田索雲には、むかし『鬼死ね』という作品があり、連載中に読んで、気になっていたのに、ちゃんと追っていなかったら、いつの間にかに打ち切りになっちゃってたのもあって、ずっと気になってたマンガ家ではある。全然気付いていなかったのだが、「川血」以後のweb連載でも社会的な問題を取り扱っていたようだ。明らかにパロディ(というかオマージュ?)なキャラクターが出ていたり、妖怪についての細かい知識がサラッと描かれていたりするので、そういうのを見つけるのも面白い。たとえば、先日、書いた河童の通臂なども描かれていたりする。

りょううでのつながっているかっぱのせんせい
通臂の河童の先生「川血」『ようきなやつら』より

eoh-gs.hatenablog.com
 個人的にもっとも刮目させられたのは関東大震災時の朝鮮人虐殺を扱った「追燈」。舞台が関東大震災と気付いた時に浮かんだ「どうせ虐殺事件には触れないだろうなぁ」という予想を、みごとに裏切るド直球のものだった。全く予想していなかったので、思わずうめいてしまったくらいだ。歴史修正主義ヘイトクライムの跋扈するこの社会*1で、このような直球のマンガを出してきた作者には敬意を表したい。虐殺を正面から描きながら、また別の手法もとっているところに、筆舌に尽くしがたい事実を伝えたい、という作者の熱意を感じる作品である。こういう話で幽鬼が出てくると、鬼哭啾啾といった感じになりがちだが、そういう風にはしない、というところもよいと思う。余談だが、事件から今年は99年目だが、この作品の舞台である四ツ木橋の虐殺追悼碑は、設置者たちが、何年も交渉したが公有地には建てられず、私有地に建っている。

ついとうようきなやつらより
「追燈」『ようきなやつら』より

 どのエピソードも、それぞれのあわいを生きざるを得なくなった妖怪が主人公なのだが、表題にもなっている、ラストの「ようきなやつら」は、どこかで見たような髪型の、武良木さんが主人公。名前もどこかで聞いたような感じだが、彼もまた、ゆえあって幽明のあわいに生きざるを得ない人である。その武良木さんが、収録作の妖怪たちを連れて、「悪い気」を感じる鎌倉*2に行くという話。最後の黄昏時の浜辺の描写もまた、幽明のあわいを感じさせるシーンとなっていてよい。妖怪物としてもぶれていない一冊である。

よつぎばしちかくのちょうせんじんぎゃくさつついとうひ
四ツ木橋近くの私有地に建てられた追悼碑

*1:この作品が無料WEB配信されなかったのは、そうした社会的気分も関係しているのだろうが。

*2:同じ双葉社だし西岸良平の『鎌倉ものがたり』オマージュなのだろうか。