19年前に岩波新書で指摘された誤訳が直されずにそのまま河出書房新社から文庫化

気付いてやれよ……って無理か

5年ほど前に以下のようなものを書いた。
eoh-gs.hatenablog.com
 ホルヘ・ルイス・ボルヘスのアンソロジー『夢の本』(堀内研二国書刊行会 1983年 原題 LIBRO DE SUEÑOS) の中のエピソード「死の宣告」、実は『西遊記』の中の「魏徴斬龍」というエピソードなんだけど、日本語訳では肝腎の"魏徴"がなぜか"韋成"になってるぅ、というのを岩波新書西遊記』(2000年)で中野美代子氏が指摘しているよ、というエントリーでした。でもって実は「死の宣告」はボルヘスの別のアンソロジーボルヘス怪奇譚集』(柳瀬尚紀晶文社 1976年 英語版からの重訳 原題 CUENTOS BREVES Y EXTRAORDINARIOS )にも収録されていて、そっちの方が日本での出版が早い。自分が見てアレとなったのは『ボルヘス怪奇譚集』の方だったんで、『夢の本』訳者の堀内氏は『怪奇譚集』を参考にした際に、柳瀬氏が魏徴の名前を間違えた部分を、そのまま参考にしちゃったんではないのか、という推測をしていたわけです。ただその際『夢の本』を確認してなかったのよね。
 先日、偶然行った書店で面陳されてて気付いたのだが2月末に『夢の本』文庫化してました。直ってるかな~と思って確認してみたら直ってない、辛い。つД`) ついでに買っておきました。持ってなかったんで。でも最近文庫高いよね。


 もしかして?と思ったらやっぱり『ボルヘス怪奇譚集』も昨年4月に文庫化されてました。確認しに書店に見に行ったらやはり直っておらず。これも面陳されてて2刷でした。日付確認するの忘れたから勝手な推測だけど『夢の本』出るから増刷かけたのかもね。まあ、たまたま2刷だっただけでもっと増刷してるかもしれないけど。

 この「魏徴斬龍」のエピソードは岩波文庫の『西遊記』(李卓吾先生批評西遊記)だと第九回 「袁守誠妙算無私曲 老龍王拙計犯天條」から第十回「二將軍宮門鎭鬼 唐太宗地府還魂」にあたる。冥界話などちょっと説明が必要な要素が強いのでテレビドラマなどのポピュラーな『西遊記』では割愛されちゃうパートかもしれない。柳瀬氏も堀内氏もこのエピソードが『西遊記』であることに全く気付いていないようなのは、そういうあたりが原因な気がする。